【123冊目】上山信一・稲葉郁子「ミュージアムが都市を再生する」
- 作者: 上山信一,稲葉郁子
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2003/12/16
- メディア: 単行本
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「ミュージアム」のあるべき姿について、諸外国や国内の事例、そもそものミュージアムの本質や役割に即して論じた本。
著者の一人である上山氏は行政経営改革の第一人者であるが、やみくもな効率化論や民営化論は本書では採られていない。むしろ、ミュージアムの社会的意義を高く評価し、その役割を非常に広く捉えた上で議論が展開されている。
本書を読む限り、行政とミュージアムはそもそも相性が悪い。硬直的なシステム、意思決定の遅さ、担当者の頻繁な異動等は、高い専門性と柔軟で機動的な意思決定が求められるミュージアムの運営には真っ向から反する。かといって、民間の独立採算で運営することも至難である。入館料だけで運営できるミュージアムは存在しない。企業や個人の寄付、行政の補助金に頼らざるを得ない。それに、入館者数を増やせばよいというものでもない。ミュージアムの社会的機能に照らせば、時には人が集まりにくくても芸術的・文化的に価値のある企画や展示を行う必要も出てくる。
他業種に比べ、ミュージアムの経営はとても難しい、という認識から本書はスタートする。既存施設の経営改革等、簡単に見えることもあるが、往々にしてその背後には複雑な要因が絡まりあっている。本書ではそのあたりを、現場レベルでの対応で解決可能な問題から、社会環境の整備や政治プロセスの中で解決しなければならない問題までの4段階に整理し、問題の水準を段階的に検討しなければならないとする。
その他、ミュージアムの規模と経営の相関関係(Jカーブモデル)、文化政策に無知な行政部門による見当違いの行政評価や「行政改革」の弊害の大きさなどが指摘されており、参考になる。行政と民間のパートナーシップ、距離感の取り方などを考えるにあたって重要な示唆も多く含まれており、勉強になる点が多かった。