自治体職員の読書ノート

読むために書くのか、書くために読むのか。

【120冊目】杉浦日向子「江戸へようこそ」

江戸へようこそ (ちくま文庫)

江戸へようこそ (ちくま文庫)

現代のわれわれから「江戸」という都市を見る場合、今の東京との連続性を意識することは少々難しいように思う。そのため、ややもすると趣味的でエキゾチズムがかった見方をしてしまいやすい。しかし、本書はそうした立場には立たず、着物、遊郭春画・浮世絵、戯作など「活きた」江戸風俗をリアルに描き出すことで、骨董品趣味とはほど遠い生きた江戸の姿を浮かび上がらせている。

エッセイと対談が交互に登場するが、中でも浮世絵に関する部分が面白い。今、本物の浮世絵を見ようとすれば、おそらく美術館などでガラスケース越しに見ることになるだろうが、それは当時の浮世絵の見方ではないという。浮世絵は「手に取って」見るものであり、そのため西洋絵画のような全体を一度に見る見方ではなく、細部をひとつひとつ追うような見方になるらしい。そのため、浮世絵は細部にこそさまざまな工夫が凝らしてあるのであって、そのことを見落とすと浮世絵の本来の愉しみは分からないという。

また、圧巻は黄表紙一作をまるごと本書の中で再現し、注釈を加えた「金々先生栄華の夢」である。これが本当に面白いのである。絵と文字が一体となったスタイルは今のマンガのルーツとも思える。また、その中に込められた「判じ絵」的な遊びの部分も、当時の時代背景やいろいろな洒落を縦横に織り込んであり、そのあたりも現代のマンガを思わせる(例えば「GTO」の背景の書き込みの細かさや遊び心などと共通するものを感じる)。

著者は(廃業宣言はしたらしいが)漫画家でもあり、そのイラストもたっぷりと盛り込まれている。とにかく、堅苦しいことは一切抜きで、純粋に江戸の「面白さ」を伝えてくれる一冊である。