自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【116冊目】 荻原浩「メリーゴーランド」

メリーゴーランド (新潮文庫)

メリーゴーランド (新潮文庫)

不採算のテーマパーク「駒谷アテネ村」再生のため、第3セクターに出向となった平凡な地方公務員を主人公に、その再生のプロセスを描いた小説。

いち自治体職員としては、いまどきここまでヒマな役所があるのか、という気もするが、それにしても、事なかれ主義・前例踏襲主義などの役人のメンタリティ、役所という組織のいびつさ、「役所より役所的」な第三セクターの姿から、さらには業者と行政の癒着、地方を牛耳る土建政治の問題点に至るまでを、よくぞここまでと言いたくなるほど見事に画き切った小説である。その取材力、描写力、それらを巧妙にプロットに溶け込ませ、伏線として活かし切る構成力と、一気に最後まで読ませるストーリーテリングは、いずれも流石としか言いようがない。

主人公の前職である家電メーカーの「職場で人が死ぬ」激務と役所での仕事、事なかれ主義の役人と売れない劇団「ふたこぶらくだ」の来宮らの破天荒な創造力など、とにかくコントラストのつけ方が上手い。そして、その中で旧態依然たる第3セクターの理事連中、役所の職員の発想のいじましさが際立ってくる。アテネ村を盛り上げようと役人としての殻を破って捨て身で奮闘する主人公の足をあの手この手で引っ張るこの連中の姑息さと情けなさにはまったく腹が立つばかりだが、そういう連中の、役人独特の考え方や振る舞い方の中に時折、ちらりと自分の姿が見えてしまい、読みながら慄然としたことも一度や二度ではない。

何のために自分は仕事をしているのか、何のために生きているのか、突きつけられているのはそのことである。自分は一度でも、この主人公のように捨て身で仕事にぶつかっていけるだろうか。あるいは、保身と惰性の中で、大過なく日々を過ごしつつ、ただ老いさらばえていくのだろうか。読み終わったあと、そんなことをずっしりと考えてしまった。

とにかく、公務員を描いた小説はいくつかあるが、その中でもこれはテーマ、ストーリー、エンターテインメント、どれをとってもとにかく一級品である。「県庁の星」よりも、こっちを映画にすればいいのに。