自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【113冊目】竹内 誠「江戸談義十番」

現代に生きる江戸談義十番

現代に生きる江戸談義十番

江戸東京博物館の館長で、歴史学者でもある著者が、江戸をテーマに行った10の対談を収録した本。

対談相手は学者や作家を中心にきわめて多彩であり、対談内容も江戸時代の政治、経済、文化、人情など幅広いものとなっている。驚くのは、そのすべてのテーマについて、ホスト役である著者が対等以上の見識をもち、議論していることである。往々にして、対談のホスト役というとゲストのお話を拝聴しているだけ、というケースも多いが、本書では(悪い意味ではなく)どちらがゲストか分からないくらいである。

江戸という都市については、案外知らないことが多い。当初は京都をモデルにしつつ作られたこと(明暦の大火まで)、働く口が豊富にあったこと(「宵越しの銭はもたない」などという発想は、翌日も稼ぎ口がある社会にしかありえない)、外食が案外多く、庶民もわりと旨いものを食べられたことなどは、本書で初めて知った。また、参勤交代によって全国から人やお金が江戸に集中したことによって江戸が巨大都市化したという指摘も、なるほどと思った。現在の東京一極集中は、あるいは当時の参勤交代制度に遠因があるのかもしれない。

江戸と東京というとまるで別の場所のようであるが、実際には江戸から東京まではほとんど地続きであり、大火、地震、空襲などで建物の多くは灰となったが、歴史そのものは途切れることなく脈々と続いていることが、本書を読むとよく分かる。江戸という歴史上の都市を知るのみならず、東京という現在の都市を知るうえでのヒントとなるトピックが満載の一冊である。