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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【112冊目】三好直樹「まもなく開演−コンサートホールの音響の仕事」

芸術・芸能・スポーツ

最近、文化行政・文化政策がらみの本を読むことが多くなっている。手当たり次第の濫読もよいが、ひとつの方向性をもって芋づる式に本を読むと、またいろいろ見えてくるものがあって面白い。

その中で本書を読んだのは、「現場」の視点から昨今の文化行政活動や施設運営等を見ることができそうだったからだ。著者は新橋演舞場の音響担当を経て、東京芸術劇場の音響を担当するベテランの音響担当である。そして、ホール(特にコンサートホール)における音響の仕事はまさに文化活動の第一線を守る業務であり、特にコンサートの多くは、失敗したからといってやり直しのきかない一発勝負の現場である。それだけに、音響担当も含むホールスタッフには高度の専門性と臨機応変の対応力が求められる。

往々にして、自治体の施設運営に関する議論は、「ハード」(いわゆる「ハコ」)と「ソフト」(そこで上演されるコンテンツ)の二分論になりやすく、ホールスタッフについて論じられることはあまりない。しかし、施設そのもののクオリティは、単に建設費だけで決まってくるのではなく、そこで働く人々の技術と知識、そして意識の高さによって決定的に変わってくるのである。

したがって、そこで重要になってくるのは「人の養成」であり、「育った人材の定着」である。しかし、多くの自治体ではホールの音響担当は入札によって決まる委託会社が受け持つことになり、特に運営者側の見識が低く、まともな仕様書も書けないような場合、「安かろう悪かろう」の業者が落札してしまうことも多い。そうなると大金を投じて建てられたホールも事実上「死ぬ」のである。

ホールだけの話ではないと思うが、行政が建てる施設は「建てたら終わり」となりやすい。上演される演目の選定には力を入れても、施設を支えるスタッフという人的資源に価値を見い出している自治体がどれほどあるだろうか。良い施設は良いスタッフによってのみ維持されるということを、われわれはあらためて認識しなおさなければならないと思う。