自治体職員の読書ノート

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【106冊目】ハンナ・アレント「人間の条件」

人間の条件 (ちくま学芸文庫)

人間の条件 (ちくま学芸文庫)

本書は、「最後の政治哲学者」とも評されるハンナ・アレントの思想の結実点であり、人間の活動力を通じた政治のありよう、「公」のありようを考察した一冊である。

最近この手の本を読んでいなかったこと、用語法の独自性や複雑な構文のせいもあろうが、いや、とにかく難しかった。アレントのロジックの全体像がなかなか頭に入ってこない。それでいて、本書の中で展開されている論理の、精緻かつ大胆であることはなんとなく分かるだけに、かえって歯がゆいものがあった。

アレントはまず、人間の生活形態を「観照的生活」と「活動的生活」に対置する。観照的生活のモデルとなっているのは、おそらく古代ギリシアや中世ヨーロッパの哲学者たちであろう。それに対して、自ら世界にコミットしていく生活のあり方が後者である。

そして、活動的生活はさらに「労働」「仕事」「活動」に分類される。労働は自己完結的な生活維持の営みであり、人間の行為のなかではもっとも原始的で動物的(アレントは「労働する動物」という言葉を用いている)。仕事は、製作物(作品)を通じて世界と関わるが、その性質上、孤独な存在。活動は人間の相互作用の中において営まれるもので、政治を通じた「公」の形成につながる。モデルとなっているのは、古代ギリシアにおけるポリスの民主主義のあり方であろう。

そして、その3者プラス「思考」「観照」の4者の関係から、アレントは現代(といっても20世紀半ば)の世界における問題点や危機状況を分析し、あるべき姿を論じている。本書で示されるアレントの問題意識は多岐にわたっている。特に印象深かったのは、消費社会化、大衆社会化につれて「仕事」による製作物が単なる消耗品として使い捨てられるようになり、同時に「活動」も大衆社会化の中で衰退した結果、「労働」ばかりが幅を利かせるようになったというくだりだった(こういう理解の仕方でいいのかどうか、自信がないが)。

私は最初、アレント古代ギリシアのポリスを理想化し、いわばそこへの回帰を目指しているのかと思っていたが、どうもそれだけではないような気もしてきた。むしろ彼女は、ポリスの直接民主主義をひとつの「鏡」としつつ、全体主義の経験を経て大衆社会化を迎えた現代における公のあり方、政治のあり方を、人間の「活動」の側面から再構築しようとしているのかもしれない。