自治体職員の読書ノート

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【103冊目】ジョン・W・ダワー「容赦なき戦争」

容赦なき戦争―太平洋戦争における人種差別 (平凡社ライブラリー)

容赦なき戦争―太平洋戦争における人種差別 (平凡社ライブラリー)

戦後の占領期を扱った傑作「敗北を抱きしめて」の著者が、日本、アメリカ双方の視点から太平洋戦争を描いた本。なお、時期的には本書が先となるらしい。

太平洋戦争の惨禍を記した本は数多いが、本書の特徴は、細かな被害状況も取り上げつつ、日米双方の国民のメンタリティ、国民感情を中心に戦争を描いている点であろう。その軸となっているのは、相手に対するステレオタイプの「人種主義」である。

本書によると、当時、アメリカ人は日本人を「猿」になぞらえ、当初はその劣等性を強調していたが、日本の快進撃が続くと今度は不相応に肥大化した「超人」像を日本人に投影したという。そして、当時の黄禍論もあいまって「日本民族を絶滅するほかこの戦争を終結するすべはない」との見解があらわれるようになり、それが、戦争末期の都市への無差別爆撃や原爆投下を許容する空気をつくったらしい。一方、日本人は古来の「鬼」のイメージに欧米人を重ねる一方、同じアジア人に対しては「民族解放」を謳いつつ、日本民族の優秀性を強調し、彼らを劣等視した。それは、アメリカ人の日本人蔑視の姿勢とまるっきりの相似形であった。

いずれにせよ、こうした偏った視点に基づくプロパガンダが敵に対する誤った(過剰もしくは過小な)認識につながり、不適切な政策決定を導き出した一要因になったようである。さらに、戦時中の人種観、人種主義が戦後にも(現代に至るまで)綿々と引き継がれていることも明らかにされる。日米の経済摩擦、冷戦中のソ連への「悪魔」呼ばわり、さらに日本人の外国人(特にアジア人)への差別・優越意識は、いずれも戦争以前からずっとわれわれの心の中に巣食ってきた人種主義の変奏曲にほかならないということのようである。

驚かされるのは、ダワーが日本について戦争中の資料はもとより、それ以前からの日本人のメンタリティを詳細に研究し、戦争中の日本人の精神状態に肉薄していることである。その稀有な取材力と構成力なくして、このようなバランス感覚にすぐれた戦争研究書は生まれなかったと思われる。