自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【96冊目】玄田有史「働く過剰」

働く過剰  大人のための若者読本  日本の〈現代〉12

働く過剰 大人のための若者読本 日本の〈現代〉12

「仕事」を軸とした若者論。特にニートに代表される「働かない若者たち」についての考察が深い。

 「ニート論」というと、「今どきの若者は怠けている」「親に甘えている」など、漠然とした印象に基づく感情論が時折見られるが、本書はそのようないい加減な印象論を排し、統計的なデータや、ニートへの就業支援に関わる方々の言葉といった論拠を示した上で、さまざまな切り口からニートについて論じている。

著者はニートを、就業を希望しない「非希望型」と、就業を希望しながら就業できない「非就業型」に分類したうえで、親世帯の年収、親の育児アプローチ、本人の就業に対する意識などのファクターから、ニートについて一般的に言われている見解を検証している。中でも親世帯の年収については、一般には親の年収が高いほど、それに甘えてしまうためニートになると思われがちであるが、実際は親世代の年収が低い家庭のほうが子どもがニートになるケースが多く、「貧困の再生産」が生じているという。

その他にも「即戦力」が求められているという大学や若者自身の幻想、正社員として働く若者たちの慢性的な過重労働状態、さらにはニートへの生活支援や就業支援に取り組むNPOの現状等、若者と仕事をめぐる現状を広く紹介している。その中で著者が強調するのは、何事にも「過剰」を求めず「ほどほど」であること、コミュニケーション能力(特に「聞く能力」)の重要性である。また、個々のケースによって「働かない」理由はさまざまなのであって、「ニート」として簡単にひとくくりにすべきではない、とも著者は指摘する。ニートとなる原因も、その対策も、簡単にひとことでまとめられるようなものではないのである。いずれにせよ、自分が「ニート」についてどれくらい「知らない」かを認識するというだけでも、本書を読む意義はあるといえる。