自治体職員の読書ノート

読むために書くのか、書くために読むのか。

【94冊目】神野直彦・澤井安勇編著「ソーシャル・ガバナンス」

ソーシャル・ガバナンス 新しい分権・市民社会の構図

ソーシャル・ガバナンス 新しい分権・市民社会の構図

本書は、「ソーシャル・ガバナンス」すなわち「市民による組織や活動」と「行政」との協同的な関係のもとに営まれる公共的社会のあり方を、多面的に考察した本である。

市民概念については、ちょっと前に懐疑的な見解を書いたところであるが、本書ではそのあたりの概念がわが国では未だ未成熟であることや、市民組織の社会的アクターとしての未熟さにも言及したうえで、諸外国の実例や国内のいくつかの地方における取り組み、また行政・政治・社会学的な見地から、それでも「ソーシャル・ガバナンス」の実現がわが国にとって喫緊の課題であることを論証してみせている。その議論の大筋や、その実現に多大な困難が伴うことについては、全くの同感である。

住民との協働による地域経営がうまくいっている地域に共通する点は「できることから」始めていることだという指摘があるが、その通りだと思う。逆に言えば、そういった「試行」「チャレンジ」「漸進的施策展開」ができない市町村は、市民社会との連携において、徐々に他の自治体の後塵を拝していくことになるのだろう。その差は、数年のうちに、案外とりかえしのつかないくらい広がってしまうのかもしれない。

諸外国(スウェーデン、フランス等)の実例も挙げられているが、ただ良い点ばかりを無批判に述べるのではなく、それぞれのケースにおいて発生している問題点や解決への取り組みを非常に丁寧に追っており、その試行錯誤のプロセス自体がこの問題の困難さと重要さを示しているように思われる。とにかくどの論考もそれぞれの問題を深く、的確に掘り下げており、非常に密度の高い本である。個人的には「近隣自治」「地区行政」についての考察が面白く、触発されるものがあった。全体の内容としてはそれほど変わったことが書いてあるわけではなく、類書も少なくないが、議論のクオリティがとても高く、その点で他の「この手の本」とは一線を画しているところである。