自治体職員の読書ノート

読むために書くのか、書くために読むのか。

【83冊目】網野 善彦「日本の歴史をよみなおす」

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)

主として平安〜南北朝時代頃を中心に、これまで通説とされてきた日本史の常識をひとつひとつ「読みなおす」という本。短大での講義を起こしたものらしい。

私が日本史を学んだのは高校時代だからかれこれ10年以上前になるが、そのことを差し引いても、日本史に対する認識を根底から改めさせられる本である。これまで為政者側の資料と現代的な発想をもとに組み立てられてきた「日本史」を、本書はさまざまな角度から解きほぐし、まったく新しい視点を提供してくれている。

例えば「非人」と呼ばれ差別される人々については、以前はむしろ神仏に近しい存在として畏怖されてきたとされ、同様に歴史上ずっと低い地位にとどめ置かれていたとされることの多い女性も、意外に広く、自由に活躍していたことが明らかにされる。

そのほか、天皇と日本の国号についても新しく知る事が多く、日本という国家に対する認識を根源的なところで改めさせられた。特に面白かったのは、「百姓」という言葉がもともとは農民ではなく「さまざまな姓をもつ人々」すなわち一般の人々という意味をもっており、自給自足の農村社会とされてきた日本の産業構造が、実は活発な交易活動や漁業、山林業による多様性をもっていたという指摘である。

そして、交易活動には海路が不可欠であり、海に面することは中世日本においてきわめて重要な要素であったという。したがって、表向きの石高は低くても、意外に豪奢な生活を営んでいた百姓は多かった。さらに、そういった盛んな交易活動が、江戸時代には抑圧されたとはいえ、幕末の薩摩、長州、土佐など「海に面した」藩での志士の輩出につながったという。

学校で学ぶ歴史はたいてい単線的で平板なものだが、本書で描かれる「歴史」は、おそろしくダイナミックで刺激的なものである。大げさではなく、本当に「歴史観」が変わり、ひいては日本の現在に対する見方が大きく変わった一冊。