自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【77冊目】霜山徳爾「共に生き、共に苦しむ」

共に生き、共に苦しむ

共に生き、共に苦しむ

日本の臨床心理における草分け的存在である著者が、自身の半生と臨床経験、古今東西の思想家の思想を縦横に織り交ぜて、「人間とは」「生きるとは」「死とは」という重いテーマに正面から取り組んでいる。カテゴリーをどうするかかなり迷った。

著者は1919年生まれ。戦中に青春時代を送り、その後渡独して、アウシュビッツの生き残りで名著「夜と霧」の著者、V.E.フランクルに出会う。その後、帰国して臨床の場に携わるようになる。その戦争や臨床の深くて重い体験が、フロイトユングなどの精神分析の先人、さらには洋の東西を問わず様々な思想家の思想と見事に融合しているのを本書ではみることができる。特に「死」「自殺」に関する論考を読むと、今日の「自殺」問題をどうしても連想してしまう。著者は、フロイトが提唱した「死の欲動」=タナトスの発想や、死に対する東洋思想を取り上げつつ、人間には本質的に死を思い、死に惹かれる(誤解をおそれず言えば「死にたがる」)性質があるという。この観点(つまり、死にたいという欲望は誰もが潜在的に持っているという見方)は、自殺論の中核であり、その点を見逃しては自殺というものに対する根本的な認識を誤ることになると思われる。いじめによって自殺する子どもたちにとって、つらく屈辱的な現実の日々に対し、「死」がどのように見えているのかを考える時、タナトスという思想の意味は大きい。

本書は、人間とは何か、生と死とは何かについての、著者の苦難の人生と具体的な臨床経験に裏打ちされた、きわめて深い洞察と掬すべき名言に満ちている。中でも、人間というものへの肯定的な認識は、まさにフランクルの「夜と霧」に通じるものであろう。