自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【75冊目】高橋伸夫「虚妄の成果主義」

虚妄の成果主義

虚妄の成果主義

タイトルどおり、いわゆる「成果主義」を批判し、日本型の年功序列制への復帰を説く本である。タイトルは手厳しいが、内容はさまざまな研究の結果を積み上げたもので、実証的な態度と明確なロジックに貫かれている。いいかえれば、成果主義の導入がいかに非合理的で非論理的なものかを、本書は明らかにしようとしているといえる。

まあ、成果主義を導入しようとする経営者側の考え方というのは、基本的には年功序列を廃することによる総人件費の抑制にあって、社員のモチベーションの向上などは社員向け、組合向けの言い訳にすぎないのであるが、その「言い訳」すら成り立たないことを、著者はさまざまな側面から論証してみせる。特に印象的なのは、「内発的動機づけの理論」、すなわち、人は本来、仕事の遂行そのもの(あるいはそれに付随する評価)に意欲を感じるものであるが、それが金銭によって報いられることによって、金銭的報酬を得ることが目的にすりかわってしまうという研究結果である。また、定期的に評価を行い、給与や処遇に反映させることは、個々の社員の見通しを奪うため、短期的に評価を得られる仕事に力点が置かれ、中長期的なビジョンが失われるおそれがあるとも指摘される。このようなさまざまな考察から、成果主義は会社にとってもマイナスであり、採用すべきではないと著者は主張する。

全体に、著者の主張はいずれもきわめて明快かつまっとうなものであり、的を射ているといわざるをえない。国や自治体でも成果主義の導入は少しずつ進められているらしく、わが自治体でも管理職にはすでに導入され、一般職への導入も時間の問題とみられているが、今一度慎重な検討をしなければならないだろう。人事委員会事務局職員は必読。