自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【72冊目】池田清彦「初歩から学ぶ生物学」

初歩から学ぶ生物学 (角川選書 (357))

初歩から学ぶ生物学 (角川選書 (357))

いや、生物学がこんなに面白いとは知らなかった。

「初歩から学ぶ」というタイトルのとおり、本書では、生命や死の基本原理、遺伝や進化など、生物学の根本的な重要問題のいくつかにトピックを絞り、きわめて平易な文章で、本当に基礎的なところから説き起こし、ひとつひとつの論理を丁寧に追いながら、最先端の議論まで一気に読者を連れていってしまう。その展開の鮮やかさは見事としかいいようがない。また、本書がある意味「初学者」に最適なのは、生物学の議論の中でどこまでは明らかにされており、どこからはいまだに分かっていないのか、その境界線がはっきりと示されていることである。特に、遺伝や進化をめぐる謎のほとんどは実は今でも未知の領域にあり、むしろ研究が進むにつれて、以前は定説とされていた理論がどんどんひっくり返されているのである。いわば本書では、既知の知識のカタログを提示することよりも、「何が分かっていないか」を示す、いいかえれば「答え」を示すよりも「問い」を示すことに力点が置かれていると思われる。そのため、読者はある地点からは(不遜にも)著者と同じ目線から「未知の問題」を見上げる視線を共有できるのである。

なお、著者の発想の大きな特徴は(あるいは生物学全般で行われている発想なのかもしれないが)「遺伝子」そのものよりも、それを取り巻く「システム」自体に生物の基本的なメカニズムが宿っていると考える点である。著者が主張する構造主義的生物学とはこのあたりをさすのか分からないが、2冊目、3冊目と読み進めていきたい書き手である。