自治体職員の読書ノート

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【70冊目】司馬遼太郎「真説宮本武蔵」

新装版 真説宮本武蔵 (講談社文庫)

新装版 真説宮本武蔵 (講談社文庫)

表題作をはじめ、「剣客」を主人公にした6つの短編が収められている。

有名、無名問わず、実在したさまざまな剣客が取り上げられている。宮本武蔵千葉周作のように、並外れた力量をもつ者も登場するが、作者の興味の中心は、むしろ剣客という人間の特異性や孤独、悲哀にあるように思う。武蔵にしても、並外れた力量がありながら、常に敗軍に属していた事もあり目立った功績もあげられず、不遇のうちに世を去っている。

本書の主人公にはヒーローは存在しない。せいぜい悲劇の主人公か、アンチ・ヒーローである。剣の道に進むがゆえ(かどうかはわからないが)、あるいは奇矯な人格を形成し、あるいは数奇な運命に翻弄される。その人間ドラマを、作者は抑えた筆致の中に鮮やかに描き出している。

ちなみに、作者は本書に登場する千葉周作を、後日「北斗の人」として長編化しているが、その原型がこの短編にあるように思われる。また、個人的には最後の短編「奇妙な剣客」が、バスク人の「剣客」を主人公にした意外性のある内容で面白かった。やはり、ラテン系が入ると、地味な歴史小説もずいぶん明るくなるようだ。