自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【69冊目】白波瀬佐和子編「変化する社会の不平等」

変化する社会の不平等―少子高齢化にひそむ格差

変化する社会の不平等―少子高齢化にひそむ格差

副題は「少子高齢化にひそむ格差」。「少子高齢化」「格差社会」といえば、いずれも近年の重要トピックであるが、両者の関連性を正面から問われると難しい。本書は、その難しいテーマに「雇用」「教育」「健康」「年金」等、さまざまな側面からアプローチした研究の集大成であり、各章ごとにそれぞれの専門家による緻密な研究の結果が示されている。類書にみられるような、いたずらに危機感をあおる論調は本書にはみられない。むしろ、そこから適度に距離を置き、客観的なデータから冷静に検証を重ねている。本書は、いわば社会科学の王道を行く、最先端の研究成果をまとめた本ともいえる。

さて、本題の「少子高齢化」と「格差」の関係であるが、本書を読む限り、これがなかなか複雑に入り組んでいる。その理由としては、「少子高齢化」「格差」それぞれの現象が多義的な意味合いをもち、それらが複雑に絡まりあったところに今日のさまざまな問題が噴出していることがあると思われる。例えば、少子高齢化は人口の減少のみならず、世代間のアンバランス、医療費の増大、中高年独身者の急増など、さまざまな現象に結びついており、それぞれが多様なかたちで格差の拡大を引き起こしている。そのことを、本書はあくまでも丁寧かつ実証的に明らかにしている。

個人的には、一億総中流などという発想自体がそもそもフィクションであり、一定の格差はこれまでも見えにくいかたちで日本社会に存在していたと思っている。しかし、問題は社会の変化に伴って格差が拡大する方向に向かう一方、流動性の低さ、社会の硬直性はそのままであるため、親世代での「結果の不平等」が固定化し、その子世代において「機会の不平等」がいろんなところで生じている事であろう。特に、少子高齢化の裏面には中高年独居世帯やDINKS、いわゆるパラサイト・シングルなどの家族形態の多様化があるにもかかわらず、行政の社会・福祉施策のほとんどはいまだに「サラリーマンの夫、専業主婦の妻、未成年の子ども」という典型的な家族形態を前提としていることから、行政のセーフティネットが十分に機能しておらず、それが不平等状態の拡大につながっているという指摘は、自治体職員としても身につまされるところである。