自治体職員の読書ノート

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【65冊目】村上春樹「アフターダーク」

アフターダーク (講談社文庫)

アフターダーク (講談社文庫)

終電を逃し、ホテルに泊まるのももったいなかったので、一晩中、外にいたことがある。ファミリーレストランでねばり、コンビニで立ち読みをし、街の中をあてどもなく歩き回った。見慣れているはずの光景なのだが、昼間とは微妙に空気が異なる。景色が日常とずれているのを感じる。異世界の入口とのはざまにいるような、不思議な感覚に陥った。そのときのことを、本書を読んで思い出した。

一組の姉妹に注目しつつ、夜が深まり、明けるまでを描いた本書は、起きている者にとっての、夜の「異界性」を描き出したものと読めた。姉妹のうち姉のエリは2週間眠り続け、そのそばには仮面をかぶった不気味な存在がある。妹のマリは特に理由もなく街の中で夜を明かし、その中で、昼間に出会うことのないさまざまな存在(といっても人間だが)に出会う。その中でマリは、姉を救うための何かを掴んだ(のだと思う)。

村上春樹の他の小説と同じく、本書もたくさんの寓意に満ち、現実からどことなく遊離したものを感じる。そのため、読者は、現実感がどことなく失われた世界に放り出される。そして、読み進むうちに、世の中が決して目に見えるものばかりで成り立っているわけではないこと、見えないもののなかにはきわめて(抽象的なレベルで)恐ろしくまがまがしいものがいることを認識させられる。そして、それと戦うためにはどうすればよいかも。本書で言えば、その指南役がラブホテルの女主人とバンドマン「タカハシ」なのだろうと思う。

ただ、これまでの作品の多くは、誰かの視点でストーリーが進んでいたように思うが、本書では視点が主に外に置かれ、読者は街全体を俯瞰する位置から夜の世界を眺めている。そして、そのことが最初と最後に強調される。そのためか、文体もまた客観的で突き放すように短い句点のリズムが重ねられており、なんだか村上龍の文章を思い出した。