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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【62冊目】福岡伸一「もう牛を食べても安心か」

もう牛を食べても安心か (文春新書)

もう牛を食べても安心か (文春新書)

狂牛病(BSE。本書ではあえて狂牛病という言葉を使用している)の問題を中心に、「食べる」という行為の生化学的意味、環境と生命の相互作用全般について、科学的見地から解説を加えている。 新書版ではあるが、本書に含まれる内容はきわめて広く、シェーンハイマーの動的平衡論(私は本書を読んで初めてこの考え方に触れた。非常に示唆に富んだ理論である)にはじまり、自然環境と人体のダイナミックな相互作用やそれを人為的に操作することの危険性、さらには狂牛病やその前身であるスクレイピーに関する研究史にも触れ、それらを踏まえて、全頭検査の必要性を論じ、狂牛病をめぐる政治的なやり取りの中における食品安全委員会のあり方をするどく批判している。 特に人為的な操作による狂牛病発生のプロセスには寒気すら覚える。効率性の名の下で、本来草食動物である牛に、生後1週間から2週間から、母乳のかわりに肉骨粉による「共食い」を強いる飼育環境。国内での肉骨粉使用を禁じた後も、海外への輸出は平然と認め続けたイギリス政府の無神経。まさに狂牛病は「人災」であることがわかる。 また、狂牛病のメカニズムが、実はまだほとんど分かっていないというのも驚きだった。異常プリオンが原因であるというのもいまだ「仮説」であり、発生原因についても未解明の部分が多い。だからこそ十分な安全策が必要なのに、政府は食品安全委員会を隠れ蓑に、アメリカの圧力のもと、これに逆行した政策を取り続ける。その愚を著者は的確に指摘する。 とにかくすべての記述がロジカルかつ明快で、間然とするところがない。ひとつの文明論としても読むことのできる、とても面白くためになる本である。