自治体職員の読書ノート

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【55冊目】宮部みゆき「堪忍箱」

堪忍箱 (新潮文庫)

堪忍箱 (新潮文庫)

江戸深川界隈を舞台にした時代小説8篇が収められている。 宮部みゆきといえば、今や押しも押されぬ大作家の一人であるが、その魅力は、何よりもその目線の(良い意味での)低さと温かさにあると思う。大好きな作家の一人。

本書は時代小説であるが、登場するのは、いずれも市井の名も無き庶民である。さらに、人物描写がすばらしい。単純な「善人」「悪人」の色分けではなく、一人一人が実に人間的で、深みと厚みをもって描かれている。その温かい人間描写と丁寧な風景描写のおかげで、どの小説も、江戸時代を舞台にしているにもかかわらず、実際にそこにいるかのようなリアリティがある。情景がハリボテではなく、空気感と厚みが感じられるのである。

ストーリーは短編のためそれほど込み入ってはいない。これからというところで話が終わってしまっているかのようなものもある。しかし、短い中にきっちりとひねりや工夫を織り込んでいるため飽きさせないし、一見尻切れトンボにみえる小説も、そこで終わっているゆえの味わい、余韻がある。名人芸としかいいようのない、鮮やかな手際である。