自治体職員の読書ノート

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【53冊目】明石照久「自治体エスノグラフィー」

自治体エスノグラフィー―地方自治体における組織変容と新たな職員像 (Law&Society D´ebut Series)

自治体エスノグラフィー―地方自治体における組織変容と新たな職員像 (Law&Society D´ebut Series)

エスノグラフィーとは一般にはあまり聞きなれない用語だが、本書によると「本来的には文化人類学者が他文化社会の中に住み込んで、そのコミュニティの習俗や文化を理解するための方法」、つまり研究対象を外部から観察したり計測するのではなく、その「内部」から生態を記述するという研究方法であるらしい。この方法を自治体現場に応用したのが本書である。

本書の核心は第2部の2つの事例研究、すなわち「公営住宅管理」「こうべまちづくりセンター」を対象としたエスノグラフィーにあるといえる。その内容は現場にある者ならではの具体的かつダイナミックなもので、著者は、そこを起点に、組織の盛衰や業務の変容のダイナミズムを大局的に描き出している。

本書によると、いわゆる内部告発等はともかく、研究といいうるレベルで自治体の内部からこういった記述・考察を行ったケースはほとんどないとのこと。そうであるならば、本書はきわめて貴重な自治体現場レポートであり、研究成果であるといえるだろう。

第3部では、これからの自治体に求められることとして、人的資源の重視を強調している。自治体職員が単なる法令執行機械ではなく、地域のコーディネータ、あるいは地域シンクタンクとして活躍できるだけの研鑽を積むことが重要と著者は主張する。しかし現状では、こういった研鑽はほとんどが職員の自己努力に委ねられ、すぐれた人材を組織全体として育成・涵養していくべきというコンセンサスはまだ十分ではないというところが実際ではないだろうか。

そのあたりに対する警鐘を、本書からは読み取ることが出来る。 まがりなりにも大学で社会学文化人類学をかじった人間としては、研究自体の方法論や精度についていろいろ言いたいことがないわけではないが、自治体職員が現場からこういったリサーチを行うこと自体、非常に重要であり、大きな可能性を秘めた方法であることは間違いないと思う。後続の研究があるかどうか分からないが、今後の展開に期待したいところである。