自治体職員の読書ノート

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【39冊目】春日武彦「何をやっても癒されない」

何をやっても癒されない

何をやっても癒されない

都立松沢病院の精神科医である著者によるエッセイ。

診察室で出会った人々について語ったものが多いが、専門用語はほとんど出てこない。むしろ印象としては、きわめて常識的かつ論理的。

著者のイメージは、少なくとも本書を読んだ限りでは、精神科医にありがちな、常識にとらわれないいわゆる「受容的」なものというよりは、常識と世間知に富んだ古風な説教親父というところ。とはいっても、考え方や感性は柔軟闊達そのもの。この微妙なブレンドが、精神科を訪れる人々や社会全般の現象についての、独特の「春日節」ともいえる解釈を産み出しているように思われる。

そして、精神科を特殊な世界としてみるわけではないが、本書は精神科という閉じた世界を扱っているようにみえて、いわゆる「健常者」の精神を逆照射していることに、読んでいると気づかされる。普段はまったく目に付かないが、この社会そのもの、あるいは読んでいる自分自身の心のいちばん深い部分に底流しているものが、わずかにだがちらりと垣間見えるのである。そのあたりの「共通項」へのまなざしが、著者の精神科医としての力量といえるのかもしれない。