自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【12冊目】上山信一「行政経営の時代」

「行政経営」の時代―評価から実践へ

「行政経営」の時代―評価から実践へ

著者は運輸省を経てマッキンゼーで企業のコンサルタントに携わるプロの経営コンサルタント。その視点で行政における「経営」の重要性を説いたのが本書である。

米英の政府、国内の主要企業、先進自治体の例などをバランスよく取り上げながら、行政に「経営」の観点を取り入れる必要性と、その方策について論じている。全体的には非常に明晰かつ説得力があり、プロならではの視点が随所に光っている。

キーワードとなっているのは「バリュー・フォー・マネー」すなわち払っているお金に相応したサービスを提供すべきであるという考え方。行政の場合、税という形でお金を「先払い」してもらっているため、このあたりの認識が甘い。この認識を全職員が共有することが出発点である。

そして、「現場主義」の視点。従来の企画、財政、総務などの官房系部署からのトップダウン方式は、多くが「組織改正・歳出削減・人員削減」の「ケチケチ3点セット」に陥りやすいとされ、むしろ、個々の現場の改良の積み重ねによる改善を重視する。また、住民の意見や感覚を徹底的に尊重し、これを反映するかたちで「住民主体の行政」のグランドデザインを描き出している。

本書は海外の事例の安易な導入ではなく、民間はすべてよしという民間理想主義でもない。確固たる視点とプロのノウハウを通じて、真に実現可能な「行政経営」のありかたを提示している。指定管理者制度の導入など、本書の観光後いろいろ状況は変わっているが、だからこそ、こういった原則を見据えた議論が必要になるのだと思う。

ちなみに、本書の見方を応用すると、おそらく指定管理者制度についてもいろいろ導入にあたって注意すべき点が出てくるように思われる。そのあたりも含め、以下のサイトが参考になるかと思うので掲載する。なお、本書末尾でも同サイトは紹介されている。行政経営フォーラム:http://www.pm-forum.org/

いずれにせよ、行政経営という発想自体は着実に草の根から広まりつつあり、いずれは大きく日本の行政を変える方向にあると思われる。その時に向け、変革期に備えることが、われわれ自治体職員にも求められているのだろう。