自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2096冊目】岡田尊司『ストレスと適応障害』

 

 
適応障害という言葉をよく聞くが、どんな意味かと問われると、なんだかよくわからない。深刻な障害のようにも、誰もが陥る状態のようにも思える。

病気や障害のほとんどは「本人の状態」が問題となる。したがって、本人の状態を改善することが治療法であったり、対応方針であったりすることが多い(本当は「障害」全般も社会との関係で生じるとされているのだが、そうした考えはまだまだ市民権を得ているとは言えないだろう)。

それに対して適応障害は、環境との関係が問題になる。適応障害とは「環境にうまくなじめないことによって生じる心のトラブル」なのである。対応方法は、「自分の状態を何とかする」か「環境そのものを変える」の大きく2つ。ちなみに、その中でも問題となる環境の作用が「ストレス」である。

適応障害は、別の名前で呼ばれていることもあるという。中でも多いのは「新型うつ病」である。そもそも、適応障害うつ病ではないが、うつ病と似たような症状を呈する。だが、うつ病は環境要因が取り払われても簡単に症状が改善しないのに対して、適応障害の場合は、要因となる環境が変わることで一気に改善する。「新型うつ病」は、会社や学校などの特定の場面ではうつ症状を呈するが、遊びとなるととたんに元気になる。これは著者に言わせると「そもそもうつ病じゃない」のである。

怖いのは、これが医者にかかってうつ病と診断されると、抗うつ薬を処方されてしまって体がだるくなり、かえって意欲が低下して「本当の病人になってしまう」ことである。クリニックによっては受診するケースの9割が適応障害ということもあるらしい。医者が病人をつくってしまう典型だろう。

さて、では仮に、自分や周囲の人を見て、適応障害を疑ったとしよう。対処すべきは、そこにかかっているストレスである。原因になっているストレスそのものを避けるか、何らかの方法でストレスを乗り越えるか。先ほど挙げた「2つのパターン」である。

その具体的なメソッドは本書の中にぎっしり詰まっているが、ひとつ印象に残ったのは「安全基地」をつくるという方法だ。安全基地とは、ストレスを感じたときにいつでも頼ることのできる「何か」のこと。それは家庭かもしれないし、友人かもしれず、あるいは安心できる場所のようなものかもしれない。ただ、安全基地は必要になってからあわてて作ろうとしても手遅れなことが多い。普段からこうした場所を用意しておき、あるいはメンテナンスしておく。ストレスへの対処が上手い人とは、こうした場所をいくつも持っている人なのだろう。

だから、というわけじゃないが、例えば仕事に熱中していても、家庭や趣味を大事にすることが重要になってくる。ふだんから周りにいろいろ相談するのも良いだろう。逆に言えば、「目的達成」に役に立たないモノをすぐ切り捨てる人、なんでも自分で対処して弱みを見せないような人は、実はメンタル面のリスク管理にいささか問題があるということになる。

なお、同じ環境に直面しても、それを不安に思う人もいればそうでない人もいる。本書を読んでびっくりしたのは、そうした「不安が強いかどうか」は遺伝子のレベルで決まっている、ということだ。ちなみに日本人では、不安を感じやすい人が三分の二を占めるとのこと。だからこそ、本書で提示されているような、不安やストレスに対処するスキルが大事になってくるのだろう。