自治体職員の読書ノート

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【230冊目】上田秋成「雨月物語」

雨月物語 (ちくま学芸文庫)

雨月物語 (ちくま学芸文庫)

安永5年(1776年)に刊行された江戸時代の小説である。古文の教科書にも出てくるような古典であり、とっつきづらい印象はあるが、なかなかどうして、怪奇幻想小説としても相当の傑作である。これまで読まなかったことを本気で後悔している。

9つの短編で構成されているが、それぞれが微妙につながりあい、意味を通じ、あるいは裏返しになっている。いずれも中国白話小説などの物語をベースにしてストーリーが組み立てられ、随所に日本の短歌や物語(特に女性関連で「源氏物語」からのものが多い)、中国の詩歌や故事などをたくみにちりばめて、見事な幻想絵巻が織り上げられている。特に文章がすばらしい。「白峰」の導入部分の幻想的な美しさ、「菊花の約」で夜中に赤穴が登場するところ、「夢応の鯉魚」の水中シーンの華麗さ、「吉備津の釜」で磯良と思わぬ再会をするシーンの恐怖、「青頭巾」の人肉を食らう僧のおぞましさなど、挙げていけば切りがないほどである。現代語訳だけの版も出ているようだが、この小説だけは、絶対に原文を読まなければもったいない。この「ちくま学芸文庫」版は、比較的短い文章のブロックごとに原文・語釈・現代語訳・評が常にセットになっており、その点ではおすすめ。原文で意味が分からなくとも現代語訳で意味を追えるし(そうしていくうちに原文が読めてくるのが不思議だ)、「評」では原典との比較や和歌の引用部分の摘示など、より深い読み方を指南してくれる。

本書はまさしく、深い情念と繊細な自然的感性を内に宿した日本生粋の怪奇幻想小説であり(かなり中国の影響も多いが)、西洋のポーやホフマンに匹敵する内容をもっていると思う(そういえばどことなくポーの短編小説に似ている)。古文アレルギーのない方は、原文でのご一読を強く勧めたい。